人とEdTechをかけ合わせ、地方の教育を応援し続ける|ベスト個別motto【Studyplus for School Award 2022】
独自の工夫をこらしながらStudyplusサービスを上手に活用し、新しい教育の在り方に取り組まれている塾・学校を表彰する「Studyplus for School Award 2022」。昨年に続き今年も受賞校によるプレゼンテーションを含むイベントを5月10日から約1ヶ月にわたり開催いたしました。
今回は、自立指導部門でご受賞された「ベスト個別motto(福島県)」髙野先生のご登壇回を振り返ります。
登壇校
■登壇者
ベスト個別motto 髙野 文敏 氏
学生時代にアルバイトで学習塾の講師を勤め、以来20年近く学習塾でのクラス指導に携わる。2019年に、現在の株式会社ベストコの前身となった株式会社GlobalAssistに入社。ベスト個別mottoをはじめとする新規事業や、質の高い教育を提供するための社内研究機関「ベストコ教育研究所」の統括を行う。
■ベスト個別mottoとは
2019年に開校した、中学生を対象とする個別指導・自立型のハイブリッド教室。「学びに自由を、みんなにできる楽しさを」がコンセプトで、「一人ひとりの学習計画をつくる」「主体的に学ぶ学習法を指導する」といった特徴がある。2019年にStudyplus for Schoolを導入。
少子高齢化を迎える日本でEdTechを使った解決策を模索する
髙野:まずは弊社が、事業立ち上げに至った背景の部分からお話させていただきます。
今後、日本の少子高齢化はさらに進んでいくといわれています。人口ピラミッドを見ても、2010年から2040年にかけて大きく変わることが分かります。そして、私たちがターゲットとしている14歳までの層は、この30年間の間に市場サイズが63%まで縮小すると言われています。福島県においても少子高齢化は加速しており、2011年の東日本大震災、中でも原発の影響で、そのスピードに拍車がかかりました。そのため、福島県においては14歳までの層が53%に縮小することはほぼ確定的な状況と見込まれています。
自分たちが何もしなくても、市場のサイズが創業時の約半分になる未来に向かって進んでいるということは、なかなかインパクトが大きいです。だからこそ、私たちが向き合わなくてはならない競合とは何かということを、きちんと考えなくてはなりません。まずは、少子化と向き合うことが不可欠です。
そして2019年には、新型コロナウイルス感染症が発生しました。私たちもさまざまな施策を打ちながらなんとか耐えてきました。
そんな中で自分たちは何を成し遂げたいかを、常に考えています。わたしたちは月に一度社員が集まる機会を作っており、そこでみんながどうありたいのか、会社としてどういう存在になりたいかを考えることを大切にしています。
こういった取り組みの中で、私たち社員の想いは「これからもずっと、地方の教育を応援し続ける存在でありたい」という言葉に集約されました。「マーケットが潤沢なところに出ないのか?」というお声もいただきます。おこがましいかもしれませんが、地方の教育を自分たちが支えていく、けん引していく存在でなかった場合、やがて地方の教育が衰退していくのではないかという危機感を持っています。ある意味で全員が使命感を持ちながら、地方教育を応援することを大事にしています。
どう取り組んでいくかというカギとして、EdTechなどを用いながら探っていこうと始まったのが、新事業や「ベスト個別motto」と呼ばれる部門です。ベスト個別に何かを掛け算することにより、これから予測できない環境の変化やサービスに対応しうる解決策を見つけること、少し先の未来への投資として、ベスト個別mottoが誕生しました。
人とEdTechをかけあわせ付加価値を生み出す
少子化以外にも、地方教育では様々な問題が起きています。現役での合格率が低く30%が浪人、良い講師の採用難、勉強場所の少なさ、学校自体の統廃合などが挙げられます。
そんな中、ある方からお話いただいた考え方がヒントになったのでご紹介します。昔の方がよかったものってありますよね。例えば音を例にとると、ライブから始まってMP3までいろいろな技術が発達しましたが、音質という面では昔の方がよかったと思います。空気の振動や隣にいる人の歓声が、生演奏と共に感じられるライブでの体験は他には代えがたいものです。しかし時代が移り変わりレコードが出ることで自宅で音楽を聴けるようになり、テープがでて持ち運びができて、CDになることで大量に安く購入でき、MP3はデジタル音源をダウンロードできるようになり、利便性が高まった結果、今も残り続けています。
これを基軸に塾業界を考えると、カリスマ先生というのが誕生し、その後、もっと自分の子を見てほしいという保護者のニーズから個別の時代に変わりました。今はより「個」の指導が求められる時代に突入しています。臨場感で考えると、個別指導はライブの先生には勝てません。したがって、それに負けない価値を感じてもらえる「個の」指導とは何なのかを、私たちは考えなくてはなりません。
ベスト個別mottoでは、個別指導にEdTechをかけあわせて付加価値を加えることで、地方に質の高い教育を届けたいと思っています。
私たちの当面の目標は、この3年間で福島県でナンバーワンになることです。定義は、「教育と言えばベストコだ」と思ってもらえる存在で、服と言えばユニクロ、ファストフードといえばマクドナルドのようなイメージです。
スタッフがそれぞれの役割を果たし、教室の内外で価値を提供する
こちらが当塾のサービス構造です。ここでは分かりやすいように、それぞれの役割に、病院での職種を当てはめています。真ん中に学習プランナーという、医師に当たる役割を担う講師がおり、この人が生徒の学習計画を立てます。計画はStudyplus for Schoolのカルテ機能で、サーバントリーダー(看護師長役)とサーバントスタッフ(看護師役)に共有されます。
生徒とは1対1の面談を行い、学習プランナーによる治療計画・治療方針を保護者様ともシェアしながら、目標の設定や学習計画の立案、コーチングなどを行います。私たちのモデルにおいては、面談にリソースをかけていくことが重要です。
看護師役となるサーバントスタッフは、医師の立てた計画が順調に進んでいるか、モチベーションが落ちていないかを随時チェックし、教科の質問対応をします。スタッフ1人につき最大10人の生徒を担当してもらっています。
私たちは、教室内外で、さまざまな価値を提供しています。まず、地域のトップ校を狙っている生徒が通塾するモデルになっているので、学校・学年がバラバラでも、同じ場所を目指している人が学んでいる空間で学ぶことが、生徒にとっての価値になります。
また、ノートの取り方や勉強の仕方もきちんと伝えているので、教室で学んだ勉強の仕方を家や学校で再現できるようにしています。さらに学校の授業の受け方まで踏み込んでいます。
勉強計画の定期的なチューニングも提供する価値の一例です。頻度は月一回で、一か月分の計画に対して振り返りします。もともと少しだけ背伸びした目標を立てているので、差分が出ていないかチェックします。どのくらいの目標にするかは学習プランナー(医師役)に権限を持たせており、腕の見せ所です。
また、学習プランナーが立てた治療方針はStudyplus for Schoolを通じて保護者に見える化を行い報告しています。保護者面談は年3回実施しており、コロナ禍ではオンラインでも実施しておりましたが、今年度からまた対面に戻しました。
生徒には、Studyplus for Schoolを介してサーバントを行い、学習支援をします。「いいね」やコメントを送り、個別メッセージにも対応。多すぎても少なすぎてもあまり意味がないことがわかっていて、1日1回必ず褒めること、週に1回個人メッセージを送ること、月に1回集団メッセージを送ることを実行しています。
コロナ禍では、オンライン型のライブ配信授業も始まりました。平日に行っている通常の授業とは別に、土日に各学年ごとにZoomで集まり、一斉にライブ配信授業を実施しています。福島県内の各エリアでトップ校を目指している同級生と集まり、オンライン上で切磋琢磨できる環境を作っています。
私たちはOMOを目指しているので、塾に来てすべてが完結することに価値を置いていません。社員にも保護者様にも伝えているのが、通塾の体験を通して、自分の力で勉強できるようになることが理想の形です。
社員一人ひとりが自分のプロジェクトを持つ
当塾ではすべての社員に、週の稼働時間40時間のうち5時間は「つくる時間」に投資をしてもらっています。PDCAを回しきることが続くと、シュリンクしてしまうためです。
作って広げるという視点がないと深く潜ってしまうので、内部満足度は上がっても生徒数が増えません。したがって、一人ひとりに責任を持ってもらうセクションを作り、自分自身が設計者になって作ることを担当してもらいます。
基本的にメインジョブとなる教室運営は、縦ラインで責任を持っています。横のつくるというラインを、サブジョブとして一人ひとりが教室の垣根をこえて担当します。ある先生は高校生の責任者、ある先生はスタッフ関係の責任者、ある先生はKPIを管理する責任者、などとなっています。それぞれの責任者は、終礼で私と壁打ちをします。
私からダイレクトに何かを提案することはしません。メンバーが自分の権限でものを伝えるということをしています。私たちのブランドは、自分自身がPDCAを回すことを体感しないといけないモデルです。特に自立モデルであれば、生徒にもPDCAを回すことを伝えますが、スタッフ自身が本当にPDCAを回し続けることを体感しないと、生徒へのメッセージに体重が乗らないんです。
開校時のスタッフは、自分がブランドを作るということで、自らPDCAを回しながら教室運営ができました。しかし2年目にスケールのために増やしたメンバーは、決まっていることはできても、新しく作ったものを検証して壊す作業ができませんでした。このままでは、生徒たちにPDCAを回していこうと言えません。いいプランナーになるため、2年目の下期から仕組みを変えて、サブジョブを始めて権限を持たせることを全員にやってもらっています。
例えば、生徒の症状にあわせたデジタル学習診断書を作ったり、過去のログを見ながら成功をした生徒とそうでなかった生徒の事例を見ながら、期待効果と再現性の高い学習計画を作ったりしています。また、土曜日に行っているオンラインLIVE配信授業の開始、内部・外部への情報発信、各種モニタリング作りなどを行いました。
スタッフ評価制度は、新卒2年目の講師が作りました。この講師は、毎月行うスタッフ研修を組んだり、やりがいをあげる手段として評価制度を決めたりしています。どのタスクをこなせるようになったら、いくら支払うかというフィーの設定もしました。こういったチャレンジをする過程で、自分たちがPDCAを回すことを大事にし、その上で生徒たちにも回させていることが重要だと思っています。
このような取り組みを設計をする時、根っこにある私たちの考え方が「市場に成績向上で違和感を生む」です。一般的に通塾率が低下してトップ校の倍率は下がっている状態で、普通に運営しただけでは生徒は振り向いてくれません。特に後発の私たちがブランド塾に向き合うとき、そもそも興味を持ってもらう対象でにならなくてはなりません。誰しもが違和感を持つような成績向上を成し遂げようとしています。
例えば偏差値63の生徒が67に上がって高校に合格したら、おそらく普通だと思われます。偏差値55の生徒が70になることが繰り返し発生すれば、周囲には必ず違和感が生まれます。成績向上により、こうした違和感を作れるように様々な施策を設計します。
こういった取り組みの結果、社員の面談スキルが飛躍的に上がりました。年に2回外部評価をもらっていますが、偏差値スコアが向上。一人ひとりが、やりがいを持ってくれていると感じています。一方で、情報量の整理整頓は大変です。また、壁打ち役は簡単には誕生しません。ということは再現性が高くないので、私たちの強みでもあると考えています。
EdTechでコミュニケーションの効率を高め、もっと生徒に寄り添う塾へ
当塾の教室は、40坪程の教室で小学生から高校生までが学んでいます。今までの塾と一線を画して、生徒にとって居心地の良い空間を作ろうということで、いったん自分たちで設計して、壁紙やライト、床材などを考えました。1店舗作ったものを2店舗以降にコピーしていきます。
ロビーの作りは、教室を作る上で肝だと思っています。塾は勉強する場なので、簡単に息抜きできません。本来は授業と休み時間でメリハリをつけようとしましたが、なかなか難しいです。そこで場を切り離し、ロビーではリラックスして、教室ではトレーニングできるようにしました。
こちらは学習計画の一例です。まずは塾の学習計画をこなせるようにしようと話し、それができるようになったら、家庭学習についても提案します。これはスタッフ全員クラウド上で共有されていて、面談が終わったらそのままStudyplus for Schoolで発信し、保護者にも共有されます。右側はスタッフによる進捗面談の記録です。
こちらも学習計画の一例です。トップ校に合格するためには、何月にどういう教材を使ってどんな勉強をするべきかを考えて作ります。PDCAシートは改良を重ねており、今ではバージョン6になりました。
また当塾では、定期的に生徒向けにイベントも行っています。集中と発散を大事に、ワークショップ型のイベントを行ったり、オンラインイベントを行ったり、ゲーム大会を開いたりしながら、帰属意識を持ってもらいます。
保護者向けに各種セミナーも実施していて、現在はオンラインで行っています。私からウェビナーの形式で話しており、頻度は学期に1回程です。内容としては、当塾の取り組みやこれからについてなどを共有する場としています。
コロナ禍では世の中が一時止まりましたが、当塾はフルオンラインで対応できる状況だったので、授業や面談を続けていました。朝9時から全員に呼びかけ、1時間ごとに教科を決めて勉強してもらい、15時に終了のアナウンスをするということを、120人の生徒と毎日行いました。それもあり口コミが広がり、緊急事態宣言後に問い合わせが止まりませんでした。
私たちは人とEdTechをかけることで、地方に質の高い教育を提供したいと思っています。私がブランドを立ち上げるときにある方にいただいた言葉があります。「アプリは勉強の効率を上げるためのものではなく、生徒と先生のコミュニケーションの効率を上げるものだ、もっともっと寄り添えるようになる」ということです。
この言葉で、私は救われた気がしました。20年ほど、教室で授業をする場の空気感が大好きだったので、機械と向き合っていると、場の力が働いているのだろうかとドキドキしてしまい、勉強の合間に話しかけるなどしていました。しかしそうではなく、機械の導入によって空いた時間に、講師は人として何ができるようになるのかを考えようと思うようになり、楽になりました。学習プランニング面談の質や時間を大事にし、磨き続けることにリソースを集中しようと思えたのは、この言葉がきっかけです。
多くの方が様々なテクノロジーと向き合っておられると思います。ぜひみなさんもこの言葉を大事にしていただけたらと思います。私たちはこれからもずっと、地方の教育を応援し続ける方法を探していきたいです。