生徒が卒業後も幸せになれる術を身に着ける塾|UTUWA【オンライン指導情報共有会】
新型コロナウィルスの感染拡大により、学習塾業界は教育サービスを提供できず、事業の継続が困難となるリスクが発生しています。これを防ぐために急速に高まっているのが、オンラインでの指導体制の整備の重要性です。
新型コロナウイルス感染拡大の深刻化、そしてオンライン指導に関する事例が少ないことを受けて、Studyplus for School導入校で既にオンライン指導に取り組まれている方々にご協力いただき、オンライン指導に関する情報共有会を開催しています。今回はUTUWAの安部先生にお話を伺いました。
UTUWAについて
UTUWAの安部です。私は大学院時代から塾に勤めていたのですが、卒業時に「新しい校舎を立ち上げるから、安部くんやってみないか?」と社長に誘われました。すでに塾長も経験していたので、そのご提案を引き受けて就職。5〜6年続けたあと、色々な理由から仕事が楽しくなくなったので、スパッと辞めました。大人が楽しまず働いている姿を生徒に見せるのはどうかと思っていたので、自分が楽しいと思う道に進もうと決意したのです。
ちょうど同じタイミングで辞める先輩に「一緒に新しく塾をやってみないか?」と誘われ、もう一人バイトで来ていた大学4年生の子と、3人でUTUWAを立ち上げました。現在社員は7名になり、生徒数は54名です。
UTUWAを一言で表現すると、「毎日何時間でもプロの指導を1対1で受けられる自習室」です。授業を教えるのではなく、学習管理のサポートなどをしています。うちでは当初、学習管理や計画立てを紙ベースで行っていました。2年かけて修正しながら最善の形を探っていたのですが、あるとき一緒に働いている妻がStudyplus for Schoolを教えてくれました。HPの記事を読み、特にユニバースクールさんの記事が印象に残りました。
良さそうなので導入してみましたが、正直紙ベースの方が上手くやれると思っていました。しかし実際に使ってみると、管理するだけでなくコミュニケーションを取れるというメリットがいいと思いました。
このような学習管理などを通して、私たちが目指しているのは、生徒たちを幸せにすることです。ただ勉強を教えるのではなく、将来のことを考えたり、今どんな力が必要か考えたりしたいと思っています。適切な言葉がなかったので塾と名乗っていますが、いわゆる学習塾をやっているという感覚はありません。
少し変わった形になったのは、もともと講義型の授業形態が講師に依存するきっかけになっているのではないかと思っていたということもあります。以前の塾では、こちらが分かりやすい授業をすれば生徒はすごく喜んでくれて、成績も上がりました。ただ、それで彼らは本当に幸せになったのか疑問だったのです。大学に行って社会人になった後も、幸せになったかどうかわかりません。なので、本当に幸せになるための力を身に付けてもらえる場所を作りたいと思い運営しています。
短・中期計画と将来設計を練り上げる
こちらは高3の時間割です。HRでは、短・中期スパンの計画立てとその修正を行っています。
このようにStudyplusを使って、一つひとつの教材をどういうペースでやっていつ終わらせるかというような計画を作っていきます。ただ、コロナ禍では学校があったりなかったり、宿題が出たり出なかったりと状況が変わるものです。だから綿密にかっちりとした計画を立てるのではなく、状況にあわせてその都度ベストなものを自分たちで考えながら修正しています。
HRでは、将来について考える時間も設けています。将来何がしたいか聞いて、例えば看護師になりたい生徒なら「看護師といっても、どういう看護師になりたいの?」とか「そもそもなんで看護師になりたいと思ったの?」とか、深く話をします。
次に、朝の会・振り返りについて。毎朝9時に短・中期の計画と照らし合わせながら、その日のToDoを立てます。一日の終わりにその日の学習について振り返るのですが、できていないことがあれば翌日の朝の会で「これどうする?」とか「なんでできていなかったの?」という話もします。
他には、どんな気づきがあったか、どう学べたのかという話もします。一日の中で振り返るタイミングがあること自体が大切なので、やり方は特に細かく決めていません。
問題の本質を見抜く練習を行う
続いてゼミについて説明します。ゼミは議論型の授業で、講義形式とも質問対応とも異なる形です。まずアイスブレイクをして、一つの問題を共有。例えば黄色チャートの問題から抜粋して、生徒が早押しで解法を解説します。それに対して「なんでその解法を選んだの?」「その公式の意味って何?」っていうのを深掘りしていきながら、生徒に話してもらう議論の場です。
これは、問題の発見能力を高めるためにやっています。というのも今の時代、問題の本質をいかに見るかが大切です。問題を解決する方法自体は、オープンソースで提示されていたりいろんなところにヒントがあったりするので、さほど困りません。それよりもいかに本質を捉えた問いを立てられるのかが重要なので、その力を高めるために行っています。
もちろん入試を突破するために問題を解くこと自体も大切ですので、ここで使う問題はGoogleドライブで生徒に共有して、確認テストという形で解いてもらっています。フォルダ全てのテスト問題を入れているので、生徒は各々好きなものを解くという流れです。これを印刷してそこに書き込む生徒もいれば、画面だけをスマホ越しで見て、別のルーズリーフに書いて解く生徒もいます。提出は写真を撮ってもらってLINEで送ります。
オンライン自習室は「繋がる」ためのハブとなる
オンライン自習室を始めるとき、「繋がる」というテーマを掲げました。コロナ過でなかなか人に会えないし、生徒と私たちも顔を合わせられなかったので、いかに繋がり作っていくかを重要視したのです。
そこで取り入れたのが、「ハブとしての機能」と「ミュート自由」の二つ。ハブとしての機能ですが、先ほど説明したHRやゼミに入る前、まずは自習室に入室してもらいます。そこからブレイクアウトセッションに飛んでもらうという形です。もともと先生ごとにミーティングルームを開いていたのですが、それでは会えない生徒が増えるので、このように変えました。
ミュート自由とは、自習室内はミュートにしてもいいし、しなくてもいいという環境のこと。うちはもともと自習型の塾だったので、みんながひとつの広い教室に集まってそれぞれ自習しながら会話していました。講師同士で話したり、その会話に生徒がまざったりするのが当たり前でした。
オンラインでもそうやって繋がりを持つために、ミュート自由にしています。講師が雑談を自習室で話すとき、それに乗っかりたければミュートを解除してて入ってきてもらうこともあります。
それだけでなく、生徒同士の繋がりも生まれます。先日、中1の生徒が数学の質問を講師にした時、それを聞いた中3の生徒が「その問題なら、こういういいのがあるよ。僕、ちょっと説明したいんですけど」説明してくれました。
もちろん、自分の勉強に集中したい生徒もいます。だからそういう生徒はミュートにしたうえでオーディオもオフにして、無音の状態で取り組めるようにしています。オーディオをオフにしていなければ、こちらから声をかけて雑談することも多いです。
コロナ過でも生徒が楽しいと思える瞬間を作る
高3はレクリエーション、高2以下は部活動をしています。いろんな部活がありますが、例えばゲーム部ではPS4のゲームをオンラインでやります。うちに「レインボーシックスシージ」というシューティングゲームで日本2位のチームにいた社員もいて、一緒に楽しんでいるんです。他にも元バンドマンの社員が参加している軽音部があったり、卒業生が振り付けを教えてくれるダンス部があったりします。筋トレをする部活では保護者が参加することもあります。
ここから派生して、生徒会も生まれました。私たちが部活を立ち上げていたとき、高2の生徒が「せっかくいろいろ考えてくれるなら、私たちからも楽しいこと、やりたいことを提示したい」と言ってくれたことがきっかけです。今は週1で生徒会を開き、部活紹介やイベント企画などしています。
レクリエーションや部活も「繋がる」ことは意識しましたが、それだけでなく「楽しい」というテーマを重視しています。閉鎖的な空間に閉じこもっていると、どうしても楽しいと感じてはいけないような雰囲気も生まれます。しかし心の底から笑って「楽しいな」って思える機会は極めて大切です。
それは塾が提供するものではないかもしれませんが、私たちはいわゆる学習塾を目指しているわけではありません。生徒がいかに幸せになるかを考えているので、レクや部活を用意しています。
学校が始まったとき、部活は中止のままなら私たちの部活を続けます。ただ学校の部活が始まればそちらに行きますよね。どちらに参加するのが良い・悪いということではないと思うんです。生徒の幸せになってくれればという思いですから、柔軟に対応していきます。
今後のUTUWA
うちの生徒は私立の中高一貫校に通う子も公立に通っている生徒もいます。生徒を見ていると、私立に比べて公立はコロナ禍での対応が遅れていました。いろいろと難しいこともあるのですが、事実として生徒たちの差が広がっていってしまったんです。そんなとき、うちの共同代表が動きました。
うちの地域は塾を嫌う先生が多いので、塾として話し合いをしても取り合ってもらえません。そこで塾に通っていた公立の卒業生に声をかけて、学校と交渉をしました。そこで実現したのが、卒業生による無料のオンライン塾です。
うちの塾のオンライン指導ノウハウを卒業生の子に教えて、その子が主導して現役生に指導する形を整えました。こういう形での社会貢献は、今後も積極的に取り組んでいきたいと思います。
今は社会情勢も含めて何が起きるのか予測困難です。このままコロナが沈静化する楽観的なシナリオもあれば、この緩和を機に一気に感染者数が増えて医療崩壊を迎えるという最悪なシナリオもあります。自粛と緩和を繰り返して波のように推移していくことも考えられるでしょう。だから重要なのは予測を立てることよりも、いろんなシナリオを描いておいて、どう進んでも舵を切れるような状態にしておくことだと思います。
そのうえで私が考えているのは、オンラインとオフラインをどう接続するかということです。そもそもオフラインでなくてはいけないこと何なのかを考えた時、情報量が少ないのは問題点だと思います。
オンライン指導を初めてコミュニケーションが増えたという先生が非常に多いですが、これは必然でしょう。あらゆるコミュニケーションをとって、情報量を増やさないと指導できません。そのなかで重要なのは、情報量が少ないと意識して、いろんな角度から情報を集めてしっかり指導していくことだと思います。
オフラインで自習を見ていた時を振り返っても、生徒の視線がどこにあるのか、問題集のどういう問題で詰まっているのか、手が止まっているだけなのか考えているのか、同時にいろんな情報を処理していました。それがオンライン上では非常に難しいです。そこをいかにカバーするかを考えながら、オンラインでの指導もしっかりやっていきたいと思います。