勉強を教えないオンライン自習室の運営方法とその効果|小・中学生専用オンライン自習室Pareja【オンライン指導情報共有会】
新型コロナウィルスの感染拡大により、学習塾業界は教育サービスを提供できず、事業の継続が困難となるリスクが発生しています。これを防ぐために急速に高まっているのが、オンラインでの指導体制の整備の重要性です。
新型コロナウイルス感染拡大の深刻化、そしてオンライン指導に関する事例が少ないことを受けて、Studyplus for School導入校で既にオンライン指導に取り組まれている方々にご協力いただき、オンライン指導に関する情報共有会を開催しています。今回は小・中学生専用オンライン自習室Parejaの水野先生にお話を伺いました
小・中学生専用オンライン自習室Parejaについて
小・中学生専用オンライン自習室Pareja(パレハ)の水野です。私は愛知県出身で、大学卒業後に西三河の小さな集団指導塾に就職しました。そこに11年おり、2年目から校舎を担当して塾長を務めました。その後お声がけをいただき、大阪の個別指導塾に転職。3年間チームリーダーとして色々取りまとめ、結婚して愛知に戻るタイミングで校舎を1つ作っていただき、出産するまで2年弱勤めていました。
私がオンライン自習室を始めたきっかけは、3つあります。一つ目が子育てです。妊娠中はすぐ職場復帰しようと思っていましたが、実際に子育てが始まると塾との両立は難しいとわかりました。また、自分の子どもを預けて人の子どもを預かるのはどうなのだろうという思いもあり、復帰を断念しました。
二つ目が、塾に勤務していて感じたことです。親でもなく、内申やしがらみのある学校の先生でもない大人といろいろ話せる環境が塾だと思います。塾講師時代に子どもたちから他の人には言えないことをたくさん聞く機会があったので、こういった大人が近くにいるといいのではないかと感じていました。
それから私の中で塾は、「勉強する場所・質問する場所」という定義があります。だから暗記や演習などの質問をするまでの準備は、塾でやることではないと思っていたんです。それは家でやって来てくれたらと感じていましたが、一方で生徒たちは勉強の仕方や計画の立て方が分からないという問題を抱えていると気付きました。そこを何とかしてやれないかなと思ったのが、二つ目の理由です。
三つ目が最大のきっかけで、石田勝紀先生という方との出会いです。石田先生は、とにかく子どもの自己肯定感を上げていくことが大切で、子どもの自己肯定感を上げるにはまずお母さんの自己肯定感を高めることが必要と言っています。そこでお母さん向けのお話会である、ママカフェという活動をされていることを知り、すぐに認定ファシリテーターの資格を取得しました。
実際に塾でも、先生がいくら生徒を褒めても、家でお母さんの一言で簡単に折れてゼロになって戻ってくるということは多いと思います。お母さんたちも不安いっぱいで、子どものことを思っているのにどうしたらいいか分からないと困っています。自分が母になってさらにその気持ちが分かるようになりました。だから、お母さんのサポートや働きかけは絶対に必要だと思っていました。
石田先生のお話でもう一つ感銘をうけたのが、パソコンは人間の脳を模写してつくられていて、地頭がOS・勉強科目がソフトだというものです。OSもソフトもバージョンがあって、そのバージョンが一致しないとフリーズしてしまいます。ソフトは学年が上がるごとに自動的にアップデートされていきますが、地頭は自動的には上がりません。
そして、学校や塾と家庭の役割を分けるとすれば、学校や塾はソフトをダウンロードしたりバージョンアップする場所で、家庭は地頭を高めて考える力を付ける場所です。地頭のバージョンは生まれつき決まっていますが、日頃の声掛けで後天的によくすることができます。だからお母さんが家で声掛けなどができないのなら、その部分を私が引き受けようと思いました。
塾で働いていた時も、同じことを教えていても、理解できる生徒とできない生徒がいました。これが地頭によるものなら、オンライン自習室を開いて、何かを考えたり調べたり、発言したりという力を伸ばすようにしたいと考えました。
具体的には、普段の会話の中で、「これってどうだと思う?」と聞いたり、「それつまりどういうこと?」と聞いてまとめてもらって、具体化させたり抽象化させたりして鍛えています。これは本来家庭でやることだとは思いますが、思春期に入るとなかなか会話ができないこともあるので、うちでカバーしています。
また、Parejaは塾ではなく自習室なので、私は「先生」というより「管理人」という立場です。先生と生徒だと上下関係になるのですが、私は子どもたちと横の関係でいたいと思っています。子どもたちに気を遣わずに、何でも話してもらえたらという考えです。
Parejaの理念と使用しているICTツール
塾は勉強を教えてもらう場所ですが、「じゃあ、自習室は?」と聞かれたときに、図書館やカフェをイメージするとわかりやすいでしょう。そういうところで自習している生徒は、分からないことがあっても店員には質問しません。オンライン自習室でも同じことです。
こういうやり方にしたのは、塾で働いている時、自習についてどうなんだろうと思う部分があったからです。というのも、授業は1コマだけ取っている生徒が毎日自習に来て、分からないことを先生に聞いていたら、たくさん授業を取っている生徒よりも多くの授業時間があることになります。これは塾にとって、いかがなものかと思います。
だから自習室では塾を有効的に使うために、塾で勉強を教えてもらう前の段階までをこなしてほしいと思っています。例えば漢字や単語を覚えるとか、学校の宿題をやるとか、問題演習をして質問をたくさん作っておく場所です。そして分からなかったところを自分であぶりだし、学校や塾で聞いて私に教えてねと言っています。
Parejaで使っているツールは、まずZoomです。これで自習室を繋いでいます。それからStudyplusで学習の内容を入力させています。Studyplusは、LINEとあわせて生徒とのコミュニケーションにも活用しています。
そして、石田先生の『中学生の勉強法』という本です。ここには単語の覚え方などが載っているので、生徒に相談されたときには「こういう方法があるよ」と提案しています。ただ、こちらからあれこれ提案するのではなく、色々と伝えてみて自分でどれがいいか試して実験してもらっているような形です。
オンライン自習室の開業までの流れ
オンライン自習室をやりたいという気持ちはずっとありましたが、実際に動きだしたのは昨年末でした。今年の春から本格始動しようと思い、昨年12月にモニターを募集して、小学校6年生の双子が1組と、愛知と東京に住む中学校2年生が2人集まってくれました。
まずモニター価格5000円で、毎日Studyplusを使ったやり取りと、週に1回Zoomの面談を行いました。3月までモニターを続け、4月から本格始動を始めるときに、毎日のやり取りと月1回の面談で、月謝を15000円にしました。料金は3倍に上がったのに面談の回数は減ったのでここで離れていくだろうと思っていたのですが、それでも全員が継続してくれています。
さらに4月7日からは新しく「みんなで一緒にキャンペーン」を始め、12~13名の子どもたちが参加してくれています。内訳は、小6が1人、小4が1人、あとは小3以下で、幼稚園児も3人います。毎日朝9時から夜11時半まで自習室を開けていて、キャンペーン中は朝9時から11時まで自習室を無料開放しています。開始時間の9時は厳守で自習を開始しその時間に集まって、それぞれが自分たちの課題を黙々とこなし、自分の課題が終了したタイミングで自習室を退室していきます。
このキャンペーンを始めたきっかけは、テラコヤイッキューの渡辺先生による3月の合同自習室でした。ここに、4歳の私の娘を参加させていただいたんです。娘は中学生のお姉ちゃんお兄ちゃんと勉強できることがすごく嬉しかったようで、朝になると「やるよ!」と言って、毎日参加できました。
だから、もしかしたらお母さんとの距離が近い、もっと小さい子を対象にしてもいいのではないかと思いキャンペーンを始めたんです。これは、休校が解けるまで無料でやろうと思っています。
このキャンペーンはFacebookで告知しました。友人の子がまず参加してくれて、そのお友達に声掛けをしてくれて、一緒にやりたいと申し込んでくれました。そのお友達は春に他県へ引っ越してしまったのですが、離れてしまっても同じ自習室に来るから会えてうれしいという声もいただきました。
勉強を教えないオンライン面談の意義
正会員の子とは週一で面談をしていますが、初めはやはり知らない大人と画面上で話すことは高いハードルでした。でも「家庭のこととか、学校の愚痴とか、何でも話して」「私は先生じゃなくて管理人だから、何でも聞くよ」と言ったら、いきなり3時間しゃべり倒されたんです。「管理人」という言葉はすごく大きな意味があったと思います。今も、子どもたちが私に話しかけるときは、水野先生ではなく、ねえねえとか裕子さんと言っています。
特に東京の中学生の子にとっては、面談が大きいようです。この子はStudyplusでの記録もLINEの返信もほとんどしていこないのですが、面談には欠かさず現れるので、このためだけに会員でいるような形です。思春期で難しい年頃ということと、ご両親が共働きで忙しくされているので、ただ喋りたいというのもあるかもしれません。孤独を感じているようなので、人とのつながりがあるのはいいことと思います。
面談で話すときに気を付けているのは、「一切否定しないことと」、「押しつけないこと」です。私は選択肢を与えるだけで、選択するのは子どもたち。やるやらないを決めるのは子ども自身なのです。だから気分よく相談できて、安心感を持ってもらえていると思います。
面談では教科指導をしているわけではないので、雑談であっても話すこと自体に意義があると思います。魅力的なコンテンツがあれば、私からは「こういうのがあるよ」と紹介もできます。
オンライン自習室の管理方法
私は毎朝、LINEとStudyplusの一斉メッセージで、Zoom自習室のIDとパスワード、連絡事項を全員に送っています。そこからプラスアルファで、個々に「昨日Studyplusを入力してないよ」「今日は朝からZoom入ろうね」など、それぞれに必要なメッセージを送ります。
その後、Studyplusで「今日やること」という教材を作っているので、そこに何をするか入力してもらいます。キャンペーンで入っている子はStudyplusを導入していないので、LINEで何をやるかを保護者に送ってもらいます。
自習室を入退室するときは、Zoomのチャットで「入室します」「退出します」と報告をする。これなら何時に入って何時に出たか、時間の把握が出来ます。
退出した後は10分以内にStudyplusで学習記録を入力してもらいます。そこにプラスして「今日のバッドニュース・グッドニュース」を書いてもらっています。毎日報告しなきゃいけない環境を作ることで、何かいいこと・悪いことがないかなと日中に意識して生活をし、吐き出させることで自分の中でバッドな出来事をグッドな出来事で上書きし、気持ちよく一日を終えることが目的です。
毎週日曜日には翌週の計画表を作って、写真付きで送ってもらいます。こちらの画像は小6の子が作ったものです。
初めて作ったときは2時間かけていましたが、3カ月も経つと10~15分でこのくらい出来るようになります。こちらから「あれをやって」とは言わず、自分で決めて自分で書いて、一つずつこなす形です。できたことはStudyplusで記録しています。
私は管理人として、現在はキャンペーン中ということもあって朝9時から11時はだいたい自習室にいます。正会員の子どもたち4名が入ってくる時間は夕方や夜のこともありますが、計画表を提出してもらっていますし、事前に面談で約束している時間帯にいるようにはしています。今は休校期間でダラダラしてしまうので、時間を決めている形です。小6(現中1)の子たちは学校の時間割に沿って計画を立てているので、その時間割通りに入るように言っています。
オンライン自習室の効果と成功させるコツ
子どもたちはその日にやることをスタートで事前に宣言しているために集中しやすいようで、長いと2時間続けて勉強している子もいます。やるといったことが終わったら抜けていいと言っているので、幼稚園児も含め課題を終わらせるまで頑張っていますね。やったことやできた成果は写真で送ってもらうので、「きちんとやって、送らなきゃ」という義務感もあるようです。
また、送ってもらったものに対して私が「すごいね」「いいね」などとコメントするので、親以外の大人から褒めてもらえる嬉しさもあるようです。ある時お母さんから、「子どもから、『習慣づいてきたぜ!』という耳を疑う言葉が出ました」と報告もいただけました。
自習中は、保護者の方が仕事のため家で1人という子もいますが、小3ながら自分でスマホでつないでコメントを入れて、写真を送れています。小さい子の場合、学童といってはなんですが、1人でいるよりは誰かとつながっている方が安心感があるようです。
毎週日曜に立てている計画については、自分が立てた計画をやりたくなる仕組みが必要だと思います。娘の場合は、自習するごとにシールでポイントがたまって、そのポイントに応じて毎週見たいアニメを見る権利を与えたり、映画館で映画が観れたりするという制度にしました。1ポイント=1円というお小遣いにもなります。1か月がんばっても100円程度にしかならないため、お金の大切さを理解するようになりました。ゲーム性を持たせた方が、継続してできるのかなと思います。
オンライン自習室の卒塾
自分で計画を立て、自分でやることを決めてやれるようになり、自立自走できるようになったらサポートから卒業してもらうように考えています。自分がゴールに向けて何をするか考えることなく、塾の引いたレールに乗っているだけで、高校生になっても「いつ、何をしたらいいですか?」と指示を待つだけの子どもたちをたくさん見てきました。
これはただの支配と依存です。こんな環境で育った子供たちが社会に出て、いきなり自分で考えて行動しろと言われても動けるわけがありません。
小6(現中1)の正会員の子は自分で計画を立てられるようになっていて、「自分でやってみたい」とも言われたので、3月で卒業にしても良いかなとは思いました。ただ中学校に上がると生活が随分変わるので、最初のテストを終えるまではちょっと一緒にやってみないかと声をかけています。そのため、上手くいけばテストのあとで卒業塾ということになると思います。
卒業してしまったらそのまま関係が切れるということではなく、自習室には参加してもらって、面談も1回3000円で必要なときに受けられるようにしていく予定です。だから、テスト前後や長期休み前後のあたりで声をかけていこうかと思います。
塾の今後とオンライン自習室を始める方へのメッセージ
私一人だと、正会員の数はあと2~3人しか増やせません。でもそれでいいと思っていて、たくさん募集をかけて他の人に任せることは考えていないです。私だから見て欲しいということで集まってきてくれていますし、担当の先生が変わるということ自体に不安を感じる方も多いので、卒業まできちんと向き合って最後まで面倒見たいと思っています。
ただ、キャンペーンの方は保護者の方にご協力いただいていることと、Studyplusでの学習管理はしない分負担は軽いので、たくさんの方に使っていただけたらと思っています。
それから、今後は「何を学ぶかより、誰から学ぶか」が大切な時代になるのではないでしょうか。実は、4月から娘は香川県の寺西共育塾の授業を受講し始めました。ターゲットは通塾できる範囲から日本全国、全世界に広がったのです。だから先生たちにぜひ、魅力的なものを作っていただけたらと思います。そうやって生まれたコンテンツを、うちの子たちにどんどん紹介していきたいです。
最後にこれからオンライン自習室を始める方に向けてのメッセージですが、塾によって自習の定義は違うと思います。うちのやり方と他の塾では違うし、先生一人ひとりの考え方もそれぞれです。
例えば、ただみんなで一緒にやればいいというわけではなく、自塾の子をきちんと面倒見たいということであれば、ルールを作らないといけません。そうしないと、オンラインで自習室を開いたものの生徒が来ないということになります。今まで校舎で自習に来ない子どもたちが、オンラインだからといってすぐに自習し始めることは絶対にありません。子どもたちがやりたくなる仕掛け作りが必要です。
ルール内容に関しては、自習をどう定義するかによってやり方が変わります。だからこれからオンライン自習室を始められる方は、まずそこをはっきりさせた方が良いと思います。
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オンライン指導会は、今後継続的に開催していきます。ご興味のある方はこちらから詳細をご覧いただき、ぜひお申込みください。Studyplus for Schoolについてのお問い合わせはこちら。
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