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現場レベルでのICTツール検討ではEDXは実現しない|スタディプラス【Studyplus for School Award 2021】

Studyplus for School Award 2021とは、少子化・採用難・地域格差という社会課題が広がる中で、未来の教育の在り方・先生の新しい働き方に果敢に挑戦する教育機関を表彰するものです。 

昨年に続き今年も、受賞校によるプレゼンテーションを含むイベントをオンラインで開催いたしました。その模様をnoteでもお伝えしていきます。

今回ご紹介するのは、今年度のStudyplus for School Award開催に先立ち行われた、スタディプラス株式会社取締役COO宮坂による基調講演です。

ICTツールの導入において重要なコーチング

スタディプラス株式会社の宮坂です。今回は基調講演として、「Studyplus for School Award受賞校から考えるこれからの教育機関の経営」というテーマでお話させていただきます。

私は大学時代に、大学受験予備校で講師を務めていました。卒業後も教育業界に就職する選択肢もありましたが、当時は日本にiPhoneが上陸したタイミングで、「ITで教育が変わるかもしれない」と感じつつ、具体的にどうすべきかわからず、まずはIT自体を学ぶため、2社のIT企業にて経験を積んだのち、現在に至ります。

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まずは、私たちの教育理念についてご紹介するため、子供たちの未来と学習塾業界についてお話します。今の子供たちが大人になるころ、社会の在り方は今と大きく異なると思います。仕事の大部分をAIや機械が担い、人間はそのすき間を埋めるだけで、ノウハウや成長、やりがいなどを見いだすことができなくなり、決められた時間に働くだけの生活になりかねないのではないかという予測が出ています。

例えば、回転寿司では、寿司を作る作業を機械が行い、人間は接客や対応などを行っています。これは、人間ができないことを機械がやっているのではなく、機械ができないことを人間がやっているという状態です。

このような現状がある中で、経済産業省の「未来の教室」プロジェクトが盛り上がりを見せています。ここでは、「変化の激しい社会において、個人の責任を伴う自由を手に入れ幸せに生きるには、『決められたことを決められたとおりに行う力』以上に、『自分なりの問いを立てて、自分のやり方で、自分なりの答えにたどり着くという探究力』が重要」だと提言されています。

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次に、学習塾の未来を考えると、少子化が大きなテーマになってきます。1990年には201万人いた18歳人口が、2020年には117万人まで落ち込みました。集団指導のクラスを成立させるだけの生徒が集まりにくく、私が働いていた予備校も、当時10教室ほどありましたが、現在はありません。加えて、求人倍率が高くなっているため、個別指導を行う講師の確保も難しくなってきています。

この状況下で期待されているのが、デジタル教材の活用です。少子化による生徒募集難や講師採用難によって、集団指導塾や個別指導塾の人が足りない部分に、デジタル教材を活用する塾が増えてきています。

また、集団指導や個別指導などをやめ、教科指導をデジタル教材に一本化する自立型学習塾も増えました。つまり、「集団指導の補完にデジタル教材を使う」「個別指導の補完にデジタル教材を使う」「抜本的にデジタル教材に転換しする」3つに大きく分かれてきています。

直接指導では、生徒を指名し理解度を図るなどティーチングの中にコーチングを内包していました。しかし、デジタル教材の導入により、ティーチングのデジタル化をしたものの、理解度や進捗度チェックも生徒任せにしたことにより、実は理解ができていなかった、つまりコーチングが空洞化してしまうという現象が起きました。

そのため、デジタル教材を導入するときには、コーチングに焦点を当てる必要性がでてきます。ですが、コーチングと言っても定義は広いものです。私たちが考えるコーチングは、自分なりの問いを立てて、自分のやり方で、自分なりの答えにたどり着けることだと考えています。

教育現場のEDXを支えるStudyplus for School

コーチングを考えるうえで役立つのが、シチュエーショナルリーダーシップ理論(SL理論)です。これは、上司から部下への指示を段階的に減らしていき、最終的に全てを任せていく関係を定義したものですが、学習塾でも生かすことができると思います。

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学習塾の場合には、まず初めに、先生がどんな勉強をするか明確に指示しながら、徐々に生徒が自分で考え勉強を進められるよう指導していきます。この際、自立度合に応じて学習管理の強度を柔軟に変えることも重要です。これを実践するには、それぞれの生徒がどれぐらい自立度があるのかを把握しなくてはなりません。ですが、そのために生徒一人一人に面談するといっても、月に1回ペースが限度だと思います。これでは、生徒に合わせてコミュニケーションの強度を変えることは難しくなります。

つまり、生徒の自立度合いをリアルタイムでキャッチするには、「顔を合わせて同じ空間で面談する」という同期型のコミュニケーションは向いていません。「生徒が学習計画や学習実績を記録して更新し、先生が都合のいいときにそれをチェックする」という、非同期型のコミュニケーションに変える必要があります。

学習記録や学習管理がアナログのままでは、いつまでたっても同期型のままです。非同期型に変えていくためには、デジタル化することが大きなポイントになります。だからこそ、スタディプラスは学習記録や学習管理のデジタル化に注力しています。

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しかしながら、デジタル教材を学習塾や学校で導入すると、教材ごとに管理画面が生まれ、教材を入れれば入れるほど管理が煩雑になります。この課題を解決するために、私たちは様々なデジタル教材と連携し、一元管理できるシステムの開発を行ってきました。

私たちは、教育のデジタルトランスフォーメーションの実現を目指しています。そのためには、学習管理をアナログからデジタルに移行すると同時に、先生中心の学習管理から生徒中心へと転換させ、それらを一つのプラットフォームへとまとめます。そのプラットフォームとしてStudyplus for Schoolを提供しています。

EDXの実現には根本的な部分から見直しが必要

ここからは、DXの実践をテーマにお話しします。なぜ今DXがこれほどにも盛り上がりを見せているのか。それは、人口の減少が進み、各教育機関間で生徒の奪い合いがますます激しくなっていく事実があるためです。

しかし、競合優位性を強化できたとしても、子供の数自体が減り続けているため、生徒数の増加は見込めず、維持することがやっとな状況になっていくのではないかと思います。そのため、労働生産性の強化し、より少ないコストで教室運営することも必要となると思います。

昨年は、コロナ禍により、IT活用やDXの実践をする動機が非常に生まれやすい一年でしたが、昨年4月の全国一斉休校終了後は、多くの教育機関でオフライン指導に戻ってきています。

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では、なぜコロナ禍でDXは進まなかったのか。結論から言うと、それは、戦略の階層の下層部分に該当する点でしかICT活用に取り組めていないからではないでしょうか。

例えば、個別指導塾では、個別指導に加えて学習指導を行うため、映像授業を入れたものの、生徒の映像授業の視聴が続かなかったなどの失敗が起きました。課題解決のためには、学習を管理する必要があるのですが、取り組む時間や余裕がなく、オフラインに戻らざるを得なくなりました。

集団指導でも、インプットだけではなくアウトプットのために演習に取り組ませたいものの、なかなか定着しない生徒が多くいました。複数の集団指導塾でも、Studyplus for Schoolをお使いいただいていますが、学習記録を続けられない生徒が増え、それについて一人ひとりと話す時間がないなどの問題もでてきました。

しかし、本当の意味でのDXを目指していくには、もっと根本的なところに立ち返る必要があります。

例えば、ある塾では「自分なりの問いを立てて、自分のやり方で、自分なりの答えにたどり着く探求力を育てたい」という教育理念を持っていたとします。これを実現するため、「生徒の自立度合いに応じて先生の学習管理の強度を柔軟に変えるコーチングをする」といった政策が生まれます。

いきなり映像授業や学習管理ICT運用の議論をするのではなく、まずは教育理念に立ち返って考えることが必要だと思います。

課題そのものを「Why思考」で抽象化する

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なぜICTツールがうまく活用されないかと言えば、戦術や技術のレイヤーでしか議論されてないためです。教育理念など大切な部分を置き去りにして、「Studyplus for Schoolがあれば便利そうだし、試してみよう」といったようにICTツールを次々に導入することが多々ありますが、これには限界があり、課題が生まれてしまいます。

うまく活用していくには、「導入背景や理由は何だったのか」までさかのぼり、これらを踏まえて考える必要があります。

DXを実践するとき、あらかじめ条件や環境が定まってしまっていると、できることも限定的になります。具体的に今の環境から何かやろうとしても、制限がかかります。そこで一度抽象化し、世界観や教育理念に立ち返ると、最終成果物の自由度は高まります。

あらかじめ条件や環境が定まっている中でどのように進めるか、今ある業務をどのようにデジタル化するかと考えていくと煮詰まっていきますが、そこで、役に立つのが「Why思考」です。「なぜこれをやるのか」と背景や理由に立ち返って抽象化することでやるべきことが見えてきます。

私たちは「どのように進めるか」のHow理論に陥りがちです。最初から限定された条件や環境の中で、どのようにICTツールを活用するかという話になり、幅の狭い中で活用や議論せざるを得ず、結果的に失敗するということも多くなっています。

塾の理念や強みを生かしながらEDXを実現する

ここからは、実際にDXをどう実践するか考えた内容をご紹介します。

これは、私が以前働いていた予備校の話です。

その予備校は、定期試験対策は行っておらず、一般入試対策だけを提供していました。在籍生徒数は1教室当たり、既卒生10人、高校3年生90人、高校2年生30人、高校1年生10人ほどで、受講生徒数に偏りがあるのが特徴です。

強みは、英語科は正社員中心が多く、指導法も足並みをそろえていたこと。そして少人数指名制で、主体的に本質から理解させる授業だったことです。

弱みは、英語以外の教科は契約の講師だけで、塾としてもコントロールしていなかったことです。これでは、講師間のばらつきが生まれます。また、受講生徒数が偏っており採算が合わない講座が多数存在していました。さらに一般入試に特化しているため、高校3年生や既卒生が多くなっていました。

業務のほとんどはアナログで、チューターのメイン業務も、出席のフォローや欠席連絡、黒板消しなどです。これだけで忙しく、学習管理や生徒面談はあまりできていませんでした。

この塾の存在意義は、論理的思考ができる人材を育成することです。私はこの塾の生徒でもありましたが、ここでの体験は今も生きています。説明がつかないことは許されず、とにかく考えるようになりました。教育理念は、少人数指名制で、主体的に本質から理解させることです。

では、存在意義や教育理念をそのままにしながら、どうDXを実践すればよかったのか、考えてみます。

中小予備校が1拠点で140人確保するのは難しい状況なので、損益分岐点を70人になるようにしなければ生き残ることは難しそうです。限られたリソースでこれまでの強みを維持・強化するために、例えば先生の授業を録画で収録し、授業は映像配信に一本化します。単元ごとに収録すれば、定期試験対策にもなるかもしれません。

一方で、教育理念である、少人数指名制で、主体的に本質から理解させることを実現することを大切にするため、オフライン授業をやめて生まれた時間で、生徒一人ひとりのノートを確認し、理解度を把握し、理解できてない生徒には理解するまで個別指導するなどできるかもしれません。

これを具体化すれば、一般入試対策に偏り在籍生徒数が既卒生と高校3年生ばかりという状態から、定期試験にも対策もできるようになり、高校1年生、高校2年生も増やせるようになると思います。

時間割は、ピークタイム以外は自習室のみ開放し、ピークタイムはオンライン自習室を複数開いて、講師が質問対応を受けたり、ノートをチェックしたりします。チューターも仕事を効率化し、授業の事務ではなく学習管理の面談をメインにします。

このように整理したうえで、ようやくStudyplus for School活用の話に入ります。コンテンツ配信機能をどう使おうか、ガントチャートで生徒の進捗を管理しよう、面談ではアナリティクスを見ようといったことを検討する段階です。

弊社が実際に教室を運営していない以上、机上の空論でしかありませんが、ICTツールをこれまで数多くの教室に提供していた立場としては、ICTツールを活用するにはここまで風呂敷を広げなければならないのは間違いないと考えています。

ICTツールを活用するには上層部のリーダーシップが必要

ICTツールの活用について相談をいただきますが、生徒にICTツールを渡すだけで、生徒が自立的に取り組めることは極めて稀です。導入しても活用してくれない、現場の方々もこれまでの業務もある中では、ICTツールの活用を促す時間がないと、打つ手がなくなることも少なくありません。こうして、「うまく活用できなかった」と経営陣の方々に報告がされます。

これまでの事例を振り返ると、今までやってきたことを続けながら新しいことにも取り組むと、失敗しやすい傾向があります。つまり、足し算と引き算をしっかり行うことが重要になります。経営陣の方が「これからはAではなくBだ」と明確にコミュニケーションしていくことがポイントです。

経営陣の方々が新規業態をやらなくてはいけない、業態転換しなくてはいけない、ICTツールを活用して、これまでの業務を整理して、新しい業務をはじめるとリーダーシップをとる場合、ICTツールの活用はきっと進むはずです。ICTツール活用の成功には、もちろん現場の方々のパッションやモチベーションも大切ですが、経営陣の方々のリーダーシップの役割も大きいと思います。

Studyplus for Schoolの活用は、戦術・技術という下層にあたる部分であり、教育理念やビジョンといったより上位階層に立ち返ることが必要です。Studyplus for School Award受賞校は、大手塾から個人塾までいらっしゃいますが、これらのことを日頃から取り組んでいらっしゃる共通点があります。Studyplus for Schoolにどのような機能があるかだけでなく、登壇される先生方がどういった世界観や政策のもとで今の業態を作っているかも注目していただければと思います。


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