震災被害を受けた地域でICTを活用した塾を開く(前編)|京大個別会原町本校
Studyplus for Schoolを導入いただいた先生方に、お話を伺うコーナー。今回は、東日本大震災で被災地となった南相馬でスタートした京大個別原町本校。都心ではない地域ならではの課題を抱えながらも、ICTを利用して教育水準を高めています。どんな思いを持ち、具体的にどんなツールをどう活用しているのかなどお話を伺いました。
東北復興のために地元へ帰ることを決意
—初めに、塾について教えていただけますか?
京大個別会原町校は、「自分から目標に向かう姿勢が身に着く」というコンセプトがあります。塾の特徴は、「塾長・教室長による個別指導」「小・中高校生全教科指導」「『わかる』から『できる』へ」「忘れない力を身に着ける」という4つです。
—続いて、佐藤先生についても教えていただけますか?
私は初めから教育業界にいたわけではなく、もともとは別の業界にいました。大学院1年目の頃に震災があったこともあり、東北に貢献したいと経営コンサルの会社に入社。入社式の面談で東北地方に配属してもらえるという話でしたが、首都圏営業所への辞令が出てたんです。一年経っても異動できなかったので、東北のために何かしたく辞職しました。
会社を辞めたのは25歳の頃で、東北のためといいつつ具体的に何をしていいか分からず、バックパッカーで東南アジアを周りました。そこで、相馬港を使ってモンゴルに車を輸出するビジネスを始めようと考えたんです。しかし相馬港は震災で使えない状態だったので、港のある神奈川県に行きました。
そこで早稲田アルパスの鈴木さんに出会って、「車を売るより南相馬のためになることはある、それが教育だ」と言われました。そこで、鈴木さんの塾に入れていただき、修行させてもらったんですね。
-具体的にどんな修行をされたんですか?
普通のアルバイトではなく、経営目線で運営方法などを教えていただきました。鈴木さんは職人的な考え方を持っていて、生徒への思いが強い人です。表面上の教えではなく、生徒とどうやってもっと深く携わっていくかという点についても教わりました。
-京大個別会では様々なICTツールを活用されていますが、早稲田アルパスさんでもICTは取り入れられていたんですか?
いえ、私が見つけたものを共有していました。ICTというと、人件費が削減されるし動画を見せておけば成績が上がると思われている方も多いのですが、そうではありません。成績は人と人との接し方で上がるので、そこはすごく大事にしています。
生徒の増加により自立型の塾に切り替える
-京大個別会原町校を始められましたとき、このエリアの状況はいかがでしたか?
開塾したのが震災から2年という時期だったので、この辺りにはそもそも子どもがいませんでした。人口が7万人程度で、子どもは震災前の3~4割しか戻っていない状況です。塾自体も少なく、残っている子どもたちが塾に入れず可哀想でした。だからこそ、とにかくここで塾をやろうと思ったのですが、周りには「潰れるよ、無理だよ」と反対されました。それを押し切って始めた形です。
また、塾のある相双地区は、この辺りで唯一学習塾協会がありませんでした。そのため高校とのパイプがなかったので、協会を作りたいという思いもありました。
-開塾だけでなく、協会設立も視野に入れていたんですね。
でも他の塾に声をかけてみると、「ただでさえ子どもが少ないのに、新しく塾を作ってうちをつぶす気か」というようなことを言われました。でも、塾の先生がこんな風に考えていたらこの地域は終わりだと思い、まずは自分一人で、お金のためではなく子どものための塾をやろうと思いました。
-開塾後は順調に進みましたか?
いえ、はじめはもう潰れるかと思いました。最初の半年間はそろばん塾でしたが、2~3人しか集まりませんでした。当時は神奈川と行ったり来たりしながらやっていたのですが、半年たって自分の方が本当に潰れそうになったら、鈴木さんが「もうお前は、あっちでやれ」と言ってくれて。なんとか立て直し、2年ほどでやっと生徒が集まりました。
-今は何名くらい生徒がいらっしゃるんですか?
100名くらいです。中学生も高校生も通い放題で、中学生の半分以上は週5で来ていて、高校生もほぼ毎日来ています。
-塾を立て直す時に、そろばん以外も始めたのですか?
はい、中学生への集団個別に切り替えました。2年くらい続けて、「南相馬 塾」で検索したら一番上にヒットするようにHPを更新していって、集客が増えていったところで自立型にしていきました。
-自立型に変えていった理由は何ですか?
ありがたいことに生徒が増えて、「来年入れて下さい」と一年後の予約まで入るようになったんです。修行していた神奈川の塾と同じく3対1で教えていたのですが、それでは間に合わなくなったんです。
先生を採用しようにも、神奈川と違って求人を出しても人が集まりません。だから一人で何とか出来る方法を模索して、自立がいいのではという結論にいたりました。
-どのように自立型指導を確立していきましたか?
塩釜に合格実践塾という、被災しながらも運営されている塾さんがありまして。そちらで自立学習について学ばせていただきました。うちの場合10人くらいから始めたので、比較的スタートしやすかったです。
-現在まで自立型が上手くいっている秘訣について教えてください。
塾の雰囲気が大きいと思います。卒業生がいい雰囲気を残してくれていて、例えばチャイムが鳴ったらスパッと勉強モードに切り替えができています。
それから、「TsuX」というツールを使っていることもポイントです。これでまず映像授業を見て、それから問題を解きます。どんな簡単な問題にも解説動画があるのがメリットで、こちらはほとんど説明しなくてよくなります。
-映像授業は、生徒が見てくれないという意見もありますが、その辺りはいかがでしたか?
そういったことはありませんでした。ICTを導入するときは商品そのものより開発者の方を見るようにしているのですが、想いを持って作っているツールなら使い方次第でなんとでもなるのかなと思います。
高校生指導のためにICTツールを導入
-中高生への指導で、何か課題となっていることはありましたか?
もともと中学生を中心に開塾したので、年々増えていく高校生への対応が課題となっていました。4年前からそういう壁にぶつかって、新たに高校生のための仕組みを組み立てました。「TsuX」は中学生までにして、カリキュラムを「受験コンパス」で作るようにしたんです。その後さらに「学びエイド」を導入して、わからないところは動画で見るという流れを確立しました。
ただ、受験が目前にない高1・2年生にはまだ早いこともあり、一般受験をせず指定校を受ける生徒や、定期テストに対応するために、「成績Apシステム/教科書ナビ」も使いはじめ、コースを二つに分けました。最初から受験に向けて頑張る生徒は受験コンパスを使うコース、それ以外の生徒には成績Apを使うコースに入ります。
そこまで出来たら、今度はそれぞれの生徒が何をやっているのか可視化したくなったんです。そこで「Studyplus」を導入しました。これで、「何をどこまでやっているか」「そもそも勉強時間が足りているのか」を知れるようになりました。うちでは人から紹介いただいて色々なツールを取り入れていますが、「Studyplus」は唯一、自分たちで調べて導入したツールですね。
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前半では、塾の特徴は開塾までの流れ、利用しているICTツールなどについて伺いました。後半ではStudyplusの活用法や地域間の教育格差などについて伺います。Studyplus for Schoolについてのお問い合わせはこちら。