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福島県南相馬市で教育の情報格差を埋め、子どもたちの人生を変える場所に|京大個別会原町本校【Studyplus for School Award 2022】

独自の工夫をこらしながらStudyplusサービスを上手に活用し、新しい教育の在り方に取り組まれている塾・学校を表彰する「Studyplus for School Award 2022」。昨年に続き今年も受賞校によるプレゼンテーションを含むイベントを5月10日から約1ヶ月にわたり開催いたしました。

今回は、自立指導部門でご受賞された「京大個別会原町本校(福島県)」佐藤 晃大先生のご登壇回を振り返ります。

登壇校紹介

■登壇者

京大個別会原町本校 塾長
佐藤 晃大 先生

■京大個別会原町本校とは

「南相馬市の子ども達の人生を変える」というビジョンのもと、小学生から高校生までの全教科で定期テスト対策から受験指導まで対応。映像教材やICTツールを駆使した独自のシステムを構築し、子どもたちが小さな成功体験を積み重ね学習習慣を身につけるための仕組みや、県外にいる卒塾性が生徒とオンライン面談を通して学習管理を行うなど、先進的な取り組みを実施。HP:https://kobetukai-haramachi.com/

制限のある環境で生徒に丁寧な指導や教育における情報を提供する

佐藤先生:京大個別会原町本校の佐藤です。福島県南相馬市で、原発から20km圏内で塾を運営しています。南相馬市は少し特殊な地域で、東日本大震災で、震災、津波、原発事故に遭いました。なんとか市内に入れるようになり、開校した2014年には、子どもたちはほとんど戻っていませんでした。2016年にようやくほぼ全域が開放され、人が住める状況になっています。
人口は震災前が7万1,000人で、現在は5万7,000人です。帰還率は80%で、これ以上戻ってこないと言われています。問題は、帰還者に子どもたちが少ないことです。小学生1,700人、中学生と高校生は1,000人しかいません。高齢者は相馬市に戻っても、若者は避難先に定住しています。

南相馬市には、大学がありません。大学に通うには市外で一人暮らしをする必要があるため、町に大学生がいません。そのため、個別指導の講師を探すのが非常に難しいです。また、インフラ整備がまだ追い付いておらず、人、物資、サービスだけでなく教育も遅れています。

高校受験の状況として、学区制をとっています。当塾の地域は一番学力が低く、普通高校は1校で、進学校と言われていますが偏差値は48です。大学受験を目指す子はここにいくしかなく、中学の時は優秀だったとしても、大学受験で苦しみます。

こういった環境で運営している当塾では、2つのミッションがあります。1つ目が「子どもたちの人生を変える」です。一生懸命勉強して、しっかり結果を残したいという生徒が夢を叶えられる塾にしたいと思っています。2つ目が「教育の情報格差をなくす」です。都会に比べるとどうしても情報が少ないのですが、当塾で最先端の情報やサービスを提供することで、この格差を縮めたいと思っています。

指導方針は、「勉強の内容は教えない」です。内容自体はアプリなどの教材を使い、私たちは勉強の方法や質問の仕方、目標設定のやり方を教えます。

こちらが当塾のこれまでの流れです。初めは一人で集団個別をやっていたのですが、それでは生徒10人が限界でした。口コミで生徒が増えたことをきっかけに自立指導に切り替え、今は120人の生徒がいます。

こちらが指導形態です。高校生は管理型で、ここでStudyplus for Schoolを利用しています。Studyplus for Schoolは、当塾での指導の根底にあるものです。週に1回、30分の面談を行い、年間計画や月間計画をもとにカリキュラムの修正を行います。

カリキュラムで大切なことは、生徒と日々接触をすることです。毎週の面談のほかに、オンラインで生徒とコミュニケーションをとっています。Studyplus for Schoolを導入して試行錯誤した結果、この形に落ち着きました。初めは面談しかやっていなかったのですが、生徒が孤立する感覚になり退塾生が増えたため、今は毎日1人1回はLINEでやり取りしており、モチベーションを保っています。

また、勉強時間と勉強内容の可視化も大切です。以前は何をどれだけやったか、感覚で話してもらっていました。しかしStudyplus for Schoolを導入してからそれが具体的にわかり、可視化されました。こういう背景から、Studyplus for Schoolは当塾にとってなくてはならないツールです。

ほかにも、様々なツールを利用しています。Studyplus for Schoolが中心にあり、すべてのツールをつないでいます。

大学生講師は歳が近いという強みを活かし、生徒と密接な信頼関係を構築する

佐藤先生:私たちはこれまで、多くの検証をしてきています。2019年には生徒の入力率アップに取り組みました。何より大切なのは日々の声掛けで、「記録がついていないよ」などと毎日言い続け、1ヶ月ほど経つと自然と記録をつけるようになりました。

2020年にはコロナ禍でのサービス向上に取り組みました。今まで当たり前にやっていたことができなくなり、このままではいけない、同じサービスを担保しようと決めました。

2021年のテーマは、普遍的で再現性がある組織改革です。卒塾生の講師を筆頭にアルバイト講師だけの組織を作り、講師全員が同じサービスを提供することを目指しました。今年は、私がもっと離れて、講師たちだけで作り上げる高等部を構築したいと思っています。

ここからは、卒塾生の高等部マネージャーの堀内先生にも参加してもらいます。堀内先生は数年前まで高校生でしたし、当塾でも現場で活躍しているので、そういう生の声が今回のプレゼンテーションでみなさんの役に立つと思い登壇してもらうことにしました。

堀内先生:初めまして、堀内です。今は大学4年生で、4人の後輩講師をマネジメントしながら、生徒指導と組織改革を行っています。

佐藤先生:堀内先生は当塾で働き始めて4年目ですが、現状はいかがですか?

堀内先生:4年経って、視座が変わり仕事にも慣れてきました。慣れてくると面談にも自信を持って臨めるようになりますが、反対におろそかになってしまうこともあるので、初心を忘れないようにしています。

佐藤先生:生徒指導で大変なことは何ですか?

堀内先生:生徒一人ひとりで感じ方が違うことです。いかに生徒目線でコミュニケーションをとれるかが大切になると思います。高校2年生以上は、それぞれの生徒にどういう伝え方が響くかがわかるのですが、高校1年生のうちは探りながら見つけています。

佐藤先生:次に、やりがいについて教えてください。

堀内先生:生徒の成長を肌で感じられることです。高校3年間の成長速度は大人とは違うと感じます。最初は中学生らしさがあるのですが、卒業前は一人の大人と話しているような変化を感じます。

佐藤先生:堀内先生は大学生ですが、学生講師としての強みは何かありますか?

堀内先生:一番は、生徒との距離感が近いことです。生徒からすると、大人と信頼関係を作るのと、学生講師と信頼関係を作るのでは、感覚が違うと思います。例えば生徒から恋愛相談をされることもあり、そういう時は距離が近いと感じてもらえていると実感します。

佐藤先生:たしかに私のところにはそういう話は来ないので、とても近い距離感なのだと思います。続いて、年々アルバイト講師の後輩が入って来る中で、心境の変化はありますか?

堀内先生:リーダーシップの取り方が変わりました。初めて後輩ができた時は「自分が引っ張らなくてはいけない」と思って、厳しく指導してしまいました。しかしこれではついてきてもらえず、信頼関係が作れませんでした。そこで併走して盛り立てていくようなリーダーシップが必要だと気づき、今はそういう方向性でマネジメントしています。

佐藤先生:学生のうちにそういうことが経験できるのはいいですね。次に、今当塾に足りないことは何だと思いますか?

堀内先生:講師全員が、同じ生徒指導ができていないことです。今年に入ってくれた先生と私では、生徒に提供できるサービスの質が、正直言って同じではありません。全員がいち早く同じことができるように、勉強会を開いて意見交換などを続けていきたいと思っています。

佐藤先生:今、先生たちが週に何度か夜間に集まって勉強しているのを私も見ています。去年、組織改革で普遍的に再現性があるものを作るために、Studyplus for Schoolのカルテをテンプレート化して作るなどしましたが、資料を作るだけではだめなところが難しいと思います。今後も、改善を続けてもらえると嬉しいです。

最後に、堀内先生は今、生徒や先生にどんな思いで接していますか?

堀内先生:生徒に対しては、社会人になったときに軸を持ってほしいと思っています。高校生のうちに軸や武器があれば、社会人になったときに心の拠り所や核になります。勉強というものを通して、自分の中に一つ軸を持ってほしいです。

講師に対しても、社会人1年目の時に社会人5年目くらいのスキルを身につけてほしいと思っています。塾の仕事を通して、大学1年生の段階で社会人1年目と同じくらい成長してほしいです。

佐藤先生:私も、大学1年生から社会人として扱っていて、講師たちには自分がやりたいということをやってほしいと思っています。堀内先生、インタビューに協力頂きありがとうございました。

教育だけは平等に。教師の想いとICT技術の活用で、人生を変える塾へ

佐藤先生:昨年度、偏差値30から10カ月でGMARCHに合格した生徒の事例を紹介します。彼は高校3年生の4月時点で、進研模試で国語の偏差値が30台、英語が40台、社会が30台でした。その後、10カ月で学習院大学、中央大学、専修大学に合格しました。

彼は高校3年生までは部活に集中して、勉強に関しては定期テストをなんとか乗り越えているような状況でした。高校3年生で部活を引退したことをきっかけに、勉強に本腰を入れました。

こちらは、基礎を固めるために活用した教材です。

こちらは、生徒のStudyplus for Schoolの実際のデータです。スタディプラスが主催する、学習時間を競うS-1グランプリのおかげで、夏休みは月に最大328時間勉強しました。しかし8月の模試の時にはまだまだ点数が取れなかったので、9月までに基礎をすべて叩き込みました。

10月以降にひたすら行ったのが、赤本対策です。正答率55%くらいの赤本から着手し、2週間後に再度解いた時に正答率100%になるよう、復習を徹底しました。正答率が75%を常に超えられるようになったら、次のレベルの赤本に着手するという流れです。

こちらのグラフの赤い部分が、赤本対策をした時間です。1月は200時間ほど取り組みました。11月の模試では多少上がったものの、英語が53.9、国語が37.1、日本史が59.1という結果です。国語が特に低くて心配でしたが、赤本を解き続けました。

最終的には志望大学の中央大学の赤本を解いて、国語が60%、英語が70%、日本史が80%取れるようになり、見事合格しました。彼は高校1年生からStudyplus for Schoolを活用していたのですが、部活中心の生活であまり活用できていませんでした。そこから高校3年生になると勉強時間にこだわるようになり志望校合格までたどり着きましたが、Studyplus for Schoolがなければ危なかったと感じています。

また、赤本を活用したことで、その時どの大学に受かるレベルなのかがわかりました。模試の結果だけで判断するのではなく、説得力のある情報が得られます。これは受験校選定に役立ちます。また、Kei-netのサイトを活用しました。志望校を入れるといつまでに書類を提出するかなど表示されるので、とても便利です。

当塾では、教育だけは平等でなくてはならないと思っています。南相馬市に生まれたからという理由で、情報やコミュニティ、将来の選択肢に差があってはなりません。

私たちの熱い想いと志、そしてICT技術を活用して、この地域で子どもたちの人生を変える場所として役割を担っていきたいです。また、県外から移住してくる方たちが、安心して子育てできる地域と環境をこれからも作っていきたいと考えています。